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改訂版明宝寒水史
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〒501-4302 岐阜県郡上市明宝寒水
東氏の滅亡
時は過ぎ東氏十一代目で美濃東氏九代目常慶の時代の天文九年(1540)八月二十五日に越前国朝倉義景が郡上郡へ侵攻した。
東常慶はこれを退却させたものの損傷が大きい篠脇城の修復を諦め、赤谷山の要害跡を利用して山上に砦を構築しその麓(現在の慈恩寺辺り)に館を設けて天文十年(1541)に此処へ移り住んだ。
この山から湧出する水は鉄分を多く含んでおり空気に触れて酸化したものが川底に沈殿して赤く染まっていたことから、この山の洞谷を赤谷又は赤谷川と呼びその山を赤谷山と呼ぶようになった。
昭和の時代に赤谷山は犬鳴山と称して犬鳴山の西の峰に赤谷山城址があり東の峰に東殿山城址があるとするようになった。
これは全くの逆で、赤谷山城址ではなく砦跡であり、東の峰の南東側斜面に土岐氏の侵攻に備えて設けられた要害が残っている方である。
東殿山城址は南東側の要害(赤谷山城址)を利用するとともに北方の朝倉氏の侵攻に備えて東の峰及び西の峰一帯に砦を築造したものであることを史実や地形から知ることができる。
この山の東の峰及び西の峰の間に三角点標があり、その位置は北緯三十五度四十四分三十三.九秒、東経百三十六度五十八分十一.三秒、標高五百七十八米である。
東の峰の最頂部は北緯三十五度四十四分三十二.五秒、東経百三十六度五十八分十五.○秒の辺りで標高は五百九十数米、西の峰の最頂部は北緯三十五度四十四分三十四.○秒、東経百三十六度五十八分十.○秒辺りで標高は五百三十数米である。
東殿山城を築いた常慶には九人の子供がいてただ一人の嫡男で天文四年(1535)頃に生れたものと推測される七男の常堯は、永禄元年(1558)頃の二十三歳位のときに木越城主の遠藤胤縁に娘を妻に娶りたいと申し入れた。
常堯を嫌っていた胤縁は、永禄二年(1559)に畑佐六郎右衛門信国に娘を娶せた。
これを恨んだ常堯は八月一日の「八朔の礼」で当主に拝謁するため東殿の館へ登城してきた胤縁を、家臣の長瀬大膳に命じてその帰路を待ち伏せさせ鉄砲で狙撃し殺害してしまったと伝えられている。
常慶の娘婿で胤縁の弟の六郎左衛門尉盛数はこれを怒り寒水の遠藤氏、気良の佐藤氏などの土豪たちを集めて、永禄二年(1559)八月十四日に東殿の山城を攻め、十日間の激戦の末常慶は自害し常堯は逃亡して飛騨の内ヶ島氏を頼った。
この頃の常慶は既に隠居していて嫡男の東七郎常堯が家督を継いでいたとするものもあり、常慶父子の推定年齢や遠藤胤縁暗殺の経緯などからはその事実はなかったものと思われる。
抑々常慶は娘婿の盛数に責められる原因が解ってい筈であり、十日間も激戦を続けたり盛数勢に包囲されて激戦をしていたというこの山城から常堯が逃亡できたということは到底考えられず、然も常慶が自害しなければならない理由がない。
常慶は盛数の自領内にある木蛇寺(美並村)へ出家していたとする史料があることから、実は常慶父子は早々に降伏して追放され、常慶は出家し常堯は姉の嫁ぎ先である内ヶ島氏を頼ったのであろう。
出家した常慶は、永禄四年(1561)八月二十四日に病死したと伝えられる。
常堯は飛騨白川郷のほぼ中央にあたる保木脇の帰雲と呼ばれる地に居城がある舅内ヶ島氏理を頼り、再興を図って何度か遠藤氏を攻めたが力及ばず、天正十三年(1586)十一月二十九日深夜に起った地震による大規模な山崩れで帰雲城は城下ともども一瞬にして崩落し、城主内ケ島氏一族を含む領民数百人はことごとく地中深く埋まって全没し美濃東氏約三百年の歴史も終った。
盛数の娘で近江長浜城主山内一豊の妻千代は、城内にいてこの地震に遭い六歳の娘與禰を亡くしている。
因みに、山内一豊は「やまのうちかずとよ」や「やまうちのかずとよ」などとも呼ばれたがこれは鎌倉時代の呼び方の名残りと思われる。
更に、古文書では濁点がある仮名文字はこれを省略するのが通例で、素かも「ず」や「ズ」は「づ」や「ヅ」を使用して濁点を省略しているものが多い。
一豊を「かつとよ」と呼び、十三代徳川将軍家定の御台所だった天璋院の初名「一」を「かつ」と呼ぶのはいずれも誤りで、正しくは「かづ」即ち現代仮名遣いでの「かず」である。
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